予防保全を前提とした維持保全を行うためには、劣化のわずかな前兆を「変状」としていち早く捉える必要があります。 したがって、点検・調査の実施にあたっては、劣化が顕在化する前に対策が講じられるよう、予想される劣化を絞り込むことが肝要です。
また、劣化に関わる要因は、建設当時の技術基準や使用材料、設計や施工上の特徴、構造形式の特質、構造物の置かれている環境や交通量など多岐にわたります。 このようなPC構造物を取り巻く技術の変遷を熟知していることが重要です。 PC技術の変遷については、「PC構造物の維持保全-PC橋の予防保全に向けて-」 に詳述されているので、こちらを参照されたい。また、参考資料 にプレテンション桁とポストテンション桁の変遷を掲載していますので、こちらも参照ください。
劣化の前兆を「変状」として捉えることを目的に、主に目視観察により実施されます。 この際、表1に示すような変状を参考にして点検を行うとよいです。 とくに、予防保全を前提とした点検を行うには、他の変状よりも先に生じる遊離石灰や漏水、滞水、水しみなど、「水」に関する点検が非常に重要です。
表1 変状の種類
PC橋の橋体を点検する際の着目点は変状の種類だけでなく, 構造形式や断面形状などによっても異なることに注意します。その具体例をさらに図6~図8に示したので,これを参考に点検を行うとよいです。
図6 構造型式に着目した点検例
図7 断面形状に着目した点検例
図8 PC鋼材定着部に着目した点検例
「水」に関する点検が非常に重要です。 また,これと併せてPC鋼材上縁定着部の有無や橋面防水工の設置の有無など,「水」の浸入口や浸入経路(図9参照)に関する点検も十分に行うとよいです。
図9 水の浸入経路に着目した点検例
橋体以外の着目ポイントとして、橋面・舗装、下部構造、支承、伸縮装置、地覆・高欄、排水装置などがあげられます。 これらの部位に関しても点検を行うとよいです。
予想される劣化 | 評価指標 |
---|---|
塩害 | 塩化物イオン量,自然電位など |
水の浸透 | 遊離石灰,水しみが生じている範囲のPC鋼材本数など |
中性化 | 中性化深さなど |
凍害 | 凍害深さなど |
アルカリ骨材反応 | 残存膨張量,化学分析(SEM,EPMA)など |
化学的侵食 | 劣化因子の浸透深さ,中性化深さなど |
耐荷力不足 | ひび割れ幅,圧縮強度,弾性係数など |
部材の損傷 | 損傷の深さや範囲,部材の移動量や傾斜角など |
異常変位 | 主桁のたわみ,橋脚の倒れ,圧縮強度,弾性係数など |
支承の機能低下 | 腐食量,移動量,段差,開きなど |
疲労 | ひび割れ幅,ひび割れ密度など |
【予想される劣化の評価指標の例】