概 要
予防保全を前提とした維持保全を行うためには、劣化のわずかな前兆を「変状」としていち早く捉える必要があります。
したがって、点検・調査の実施にあたっては、劣化が顕在化する前に対策が講じられるよう、予想される劣化を絞り込むことが肝要です。
また、劣化に関わる要因は、建設当時の技術基準や使用材料、設計や施工上の特徴、構造形式の特質、構造物の置かれている環境や交通量など多岐にわたります。
このようなPC構造物を取り巻く技術の変遷を熟知していることが重要です。
PC技術の変遷については、「PC構造物の維持保全-PC橋の予防保全に向けて-」
に詳述されているので、こちらを参照されたい。また、参考資料
にプレテンション桁とポストテンション桁の変遷を掲載していますので、こちらも参照ください。
予防保全を前提とした点検のポイント
1.変状の種類
劣化の前兆を「変状」として捉えることを目的に、主に目視観察により実施されます。 この際、表1に示すような変状を参考にして点検を行うとよいです。 とくに、予防保全を前提とした点検を行うには、他の変状よりも先に生じる遊離石灰や漏水、滞水、水しみなど、「水」に関する点検が非常に重要です。
変 状 | |
a.PC鋼材の腐食・破断に関するもの | ひび割れ |
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浮き、はく離、はく落、鉄筋露出 | |
遊離石灰、錆汁、漏水、滞水、変色、水しみ、汚れ | |
b.コンクリートの耐久性に関するもの | コンクリート表面の劣化等 |
初期ひび割れ、コールドジョイント、豆板(ジャンカ)、空洞 | |
c.PC部材の性能・機能に関するもの | 異常な音・振動 |
異常なたわみ | |
遊間の異常 | |
下部工の沈下・移動・傾斜、下部工基礎の洗掘 |
表1 変状の種類
2.構造型式・断面形状・PC鋼材定着部に着目した点検ポイント
PC橋の橋体を点検する際の着目点は変状の種類だけでなく, 構造形式や断面形状などによっても異なることに注意します。その具体例をさらに図6~図8に示したので,これを参考に点検を行うとよいです。
A.構造型式に着目した点検のポイント
単純桁橋 ![]() |
ゲルバー桁橋 ![]() |
連続桁橋 場所打ち桁 ![]() プレキャスト桁 ![]() ![]() |
ラーメン橋 ![]() |
有ヒンジラーメン橋 ![]() |
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斜張橋、エクストラドーズド橋 ![]() |
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プレキャストセグメント橋 ![]() |
混 合 橋 ![]() |
図6 構造型式に着目した点検例
B.断面形状に着目した点検のポイント
単純桁橋 スラブ桁橋 ![]() 中空床版橋 ![]() |
合成桁橋 ![]() |
箱 桁 橋 ![]() |
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T 桁 橋 ![]() |
版 桁 橋 ![]() |
現 在 ![]() |
複 合 橋 波形鋼板ウエブPC橋 ![]() |
図7 断面形状に着目した点検例
C.PC鋼材定着部に着目した点検のポイント
現 在 ![]() 箱桁橋の場合 ![]() |
ウエブ縦締め定着部 ![]() |
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外ケーブル構造の定着部および偏向部 ![]() |
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床版・横桁横締め定着部 ![]() |
<PC鋼材定着具の有無の判別>
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T桁橋の場合 ![]() |
図8 PC鋼材定着部に着目した点検例
3.水の浸入経路に着目した点検ポイント
「水」に関する点検が非常に重要です。 また,これと併せてPC鋼材上縁定着部の有無や橋面防水工の設置の有無など,「水」の浸入口や浸入経路(図9参照)に関する点検も十分に行うとよいです。
桁端部 ![]() |
プレキャスト桁、 ![]() |
上縁定着部 ![]() |
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連続合成桁の一次・二次床版継目部 ![]() |
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地覆、壁高欄、 ![]() |
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片持架設工法によって施工される箱桁橋など ![]() ![]() |
図9 水の浸入経路に着目した点検例
4.橋体以外に着目した点検のポイント
橋体以外の着目ポイントとして、橋面・舗装、下部構造、支承、伸縮装置、地覆・高欄、排水装置などがあげられます。 これらの部位に関しても点検を行うとよいです。